去年1年間日本語を勉強した学生の中に、今年、ほかの学部に転部した学生が1人いた。
彼はあんまり日本語を勉強しなくて、文字が入った後、自己紹介を教えたときも「できません」の一点張り。ほかの学生たちがみんな自己紹介し終わって、どんなに「大丈夫だよ」、「がんばって」って励まされても、「できません」と繰り返すような子だった。そして、それに見かねたクラスメートが、その子に無理やり自己紹介させようと力ずくで立たせようとすると、その子は本気で怒って、泣きそうになって抵抗した。

その後も授業に来たり、来なかったり。宿題もほとんど出さなくて、試験のときは、1-2箇所埋めただけで「わかりませんから、もう帰ってもいいですか」と言うような子だった。もちろん、そんなこと日本語で言えるはずがないから、英語で・・・。

ほかの授業を担当している中国人の先生から話を聞いても、やっぱりそのクラスにもあまり行ってなかったり、当てても「わかりません」と言うだけだとか。たぶん日本語、ほんとにやりたくてやってるんじゃないんだろうな、ってすごくわかりやすい子だった。

夏休みがあけて、新学年が始まった日、出席をとるとき、その学生がいなかった。休みかと思ったら、ある学生が「Sさんはもう来ません。ほかの学部にいます」と教えてくれた。
転部。
私はそれはいいことだと思う。やりたくないことをだらだらやったって、やりたくないんだから、伸びるはずがない。本当にやりたいことをやるほうがずっといい。だけど、実際には、好きでもないのに、仕方がないがら4年間だらだら勉強して、大して日本語が話せないまま卒業するという学生も多い。中国では日本ほど転部ということが簡単ではないらしく、それをする人が少ないようだ。もちろん日本でも転部は難しいとは思うけど、「本当にやりたいことはほかにある」と思った人が、大学を中退してほかの学部を受験しなおす人は、日本ではたまにいる。だけど、日本と比べると、中国ではそんなことをする人は、ごくごくわずか。だから、彼がこの決断をして、実際行動に移すのはすごく勇気が要ったんじゃないかと思う。でも、私はその選択は良かったと思う。

その転部していった学生に、今朝授業に向かう途中、久しぶりにばったり会った。半年以上会ってなかったけど、「こんにちは」と声をかけると、すごくいい笑顔で挨拶してくれた。「元気ですか」という問いにも「はい」と、満面の笑みでの返答。きっと、この子は今、去年の何倍も充実した生活をしているんじゃないかと思う。ほんの一瞬だったけど、なんとなく近況がわかったようでうれしかった。1年だけでも私の学生。あまり授業には来なかったけど、それでもやっぱり私の学生。だから、元気そうですごく安心した。
たぶん今後も会うことはほとんどないと思う。でも、今はきっと自分で選んだ道で、精一杯がんばっているはず。顔を合わせるこも、近況を知ることもめったにできないけど、私は彼を陰ながら応援したいと思う。